越後奥三面

ポレポレ東中野で『越後奥三面 ―山に生かされた日々』を見た。
素晴らしいんだろうなと期待して行ったのだけど、やっぱり素晴らしかった。
ものすごいものを見た、という実感がある。

季節の移り変わり、そして連綿と続く人々の生活。
その様子を4年かけてカメラは追う。
なかでも雪に覆われた冬の情景は圧巻。

山に閉ざされた村、そしてダムの底に沈み今は存在しない村。
ガルシア=マルケスのマコンドの世界ではないか。

監督である姫田忠義さんと、その姫田さんが立ち上げた民族文化映像研究所(民映研)
その最初期である1980年代、私の前職であるトヨタ財団が、まさに本作の制作や公開のため繰り返し助成を行っているのだ。これはちょっと誇らしいぞ。

11年前に亡くなられた姫田さんとは、人生で何度か交差したことがある。
京大にいらした際に上映されたのは確か『椿山』ではなかったか。

あと当時事務所のあった鶴川にも呼ばれ、長時間にわたってお話ししたこともある。
当時私は上記財団のプログラムオフィサーとして伺ったわけだが、姫田さんは民映研の持つ膨大な映像資料をどう残していくか、という切実な思いを持っておられたと記憶する。

姫田さん、何というか、Voiceがとっても良いのよ。
映画のナレーションも自分で担当してるけど、そのことはご自身でも絶対自覚しているに違いない(笑)

私の財団在職時、期せずして多くの民映研関係者の方々と知遇を得た。

姫田さんの同志でもあったグループ現代の小泉修吉さん。
助成プロジェクトのみならず、折に触れて映像関係のアドバイスをいただいた。

その弟子筋にあたる鈴木正義さんとはこちら
後に映画『医す者として』に結実した。

カメラマンとして長年姫田さんと行動を共にした澤幡正範さんはこのプロジェクトのメンバーであった。
確か一緒に我がフィールドであるスラウェシにも行ったぞ。
(代表者の島上さんは師匠を同じくする院の先輩で、私が二十数年前初めてインドネシアに行ったときに初めて会った日本人でもある)

姫田さん最後の直弟子であった今井友樹さんも。
今回の『越後奥三面』デジタルリマスターにあたってクラウドファンディングにも中心的な役割を果たされたという。

そして、ささらプロダクションを立ち上げられ、今も親しくさせてもらっている小倉美恵子さん、由井英さん。

小倉さんは映画プロデューサーのみならず、今や心に染みる文章を書く稀有な文筆家だ。勝手に私淑している。
由井さんが10年以上をかけて監督した『ものがたりをめぐる物語』には内山節さんや田中優子さんや会田弘継さんといった錚々たるメンツに混じって、不肖私めも推薦コメントを寄せさせていただいている。畏れ多いことである。
(そういえば実はこの内山さんにも田中さんにも会田さんにもトヨタ財団時代に何かと関わってもらったのだった。今更ながら恵まれた職場や)

何が言いたいかというと、宮本常一から姫田さんへと連なるこの系譜は今も途絶えてなくて、そうした活動の一端に、民間の一助成財団の存在が多少なりとも寄与しているとすれば、その存在意義もあったということだ。
まさにプログラムオフィサー冥利に尽きるではないか。

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えんたく(Entak)

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