他人と一緒に住むという事

八木橋努さんと出会ったのは、彼の主催するワークショップに参加したのがきっかけだ。
7年半前、2016年春のことである。最中に熊本地震が起こったのでよく覚えている。

なぜワークショップかというと、当時私はワークショップデザインを学んでいたのである。
なぜ彼のワークショップかというと、当時私の行きつけだったどん底という新宿三丁目の飲み屋に案内の貼り紙がしてあったからだ。
ワークショップデザインを学んでいた身としては、こりゃ奇遇、面白そうじゃん、という軽いノリで参加を決めたのである。

なぜ飲み屋にそんな貼り紙がされていたかというと、後で知ったのだが、当時彼がそのどん底で働いていたからなのだ。だから、知遇を得たのはこのワークショップでだけど、実はもっと前に店員と客として会ったことはあったかもしれない。

即興的な対話劇を駆使したワークショップだったが、その実彼は実際に芝居を書き、演出を行うプロの劇作家でもあった。その頃すでに三本ほどの作品を執筆し、そして上演していた。
コロナ禍で一時中断を余儀なくされたものの、今も一年に一本のペースで作品を制作、上演している。

彼のメソッドはとても刺激的だ。
私が演劇でどちらかというと苦手なやたら大袈裟な身振り手振りとか、わざとらしさとかは一切出てこない。平田オリザ氏とはまたアプローチは異なるのだけど、独自のやり方でリアルとかどうしようもない人間の性とかを追求しているのである。

ワークショップの中で、設定と役柄だけ与えられて、即興でその場その瞬間にぽっと出てきた台詞や表情が、どんな脚本家が考えに考えても書けないリアルな言葉だったりして目から鱗。
おれってそんなこと感じてたんだ、いや、たとえそう思ってなかったとしてもこんな言葉が口から出ちゃったんだ、みたいな。事後的に気づいちゃうというか。
そしてそんな何気ない言葉たちを彼は貪欲にネタに取り込み、一つの作品を作り上げていく。なるほどその手があったか(笑)

そうこうするうちに、彼は長らく勤めたどん底を辞し、そこから至近のゴールデン街のバーのマスターになった。当時新宿に職場があった私にとって有り難いことであった。

前後して彼は仲間たちと映画を撮り始めた。
2020年の正月に試写会があっていよいよ公開かと思ったらそうはならなかった。
(お招きいただいたのだが、ちょうど大学時代の仲間との新年会で痛飲後に駆け付けたので内容よく覚えていない)

そこからさらに4年。撮影開始から実に7年の時を経て日本での公開に漕ぎ着けた。この執念、見習いたい。

で、昨日イメージフォーラムにてようやく視聴。
私も飲み屋のマスターとして一瞬映り込んでいるのはご愛嬌である。

うだうだした冴えないやり取りの中についつい自分を見てしまういたたまれなさ、人間の愚かしさに垣間見る可笑しみみないなものが何とも言えない。八木橋さん独自の世界だと思う。

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えんたく(Entak)

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