小川さやかは知っている

奉職している大学では、主たる業務以外にも、全学にまつわる委員会やらワーキンググループやら、さまざまな役割が回ってくる。
このクソ忙しいときに、と思わないでもないが、余程のことがない限り引き受けるようにしている。
今いる大学で自分のようなバックグラウンドを持つ人間は少数派なので、多様性を担保する意味で、それはそれでお役に立てる部分もあるだろうと僭越ながら自負しちゃっているのだ。

委員を拝命している会議の一つに教養教育センター会議なるものがある。良くも悪くも専門知に特化しがちな本学学生に対して、幅広い教養教育の機会を提供しようということで、そこの開設授業でどういうことやろうとか、どんな人に外部から講師に来てもらおうとか、他科から集められた先生方と議論しているわけだ。

で、今年度このセンターに新設されたのが「先端知を識る」なる授業。前期のみの開講で、外部から計四人の講師が1ヵ月(4回)ずつ担当するオムニバスの講座だ。
結果的に四人のうち二人が、私が推薦、というか紹介した人に来ていただくことになった。

一人は神崎亮平先生である。

神崎先生には2年前、縁あって私の担当している授業に出てもらった。
でもそのときはコロナ禍真っ只中でオンラインでの開催だったので、実際にお会いしたことはなかった。
これまでのブリリアントな研究業績はもちろんながら、何というか、画面越しにも伝わるスコーンと突き抜けた明るさみたいなのがあって、今回ゲスト講師の推薦を依頼されたとき、真っ先に神崎先生のことが頭に浮かんだのだった。

そしてもう一人が、大学院の同窓であり、このマニアックな研究科の出身者の中で(中島岳志さんや川瀬慈と並ぶ)出世頭である小川さやかだ。

この講座の講師をオファーした際、本人から快諾もらった後の細々したやり取りは、まさかの秘書さん経由。
うちの大学で個人秘書がいるのなんて、せいぜい学長くらいじゃないか。
早々に見せつけられたこの彼我の差よ(笑)

さもありなん。
この人の言うこと書くもの、ことごとく面白いのよね。

都市を生きぬくための狡知―タンザニアの零細商人マチンガの民族誌―

ウジャンジャである。狡知、とはなかなか秀逸な訳語ではないか。
フットボーラーの立場で言わせてもらうと、ブラジルで言うところのマリーシアやな。
十年以上前(2011年)、デビュー作にて早々にサントリー学芸賞受賞。
お呼ばれして授賞式も行った記憶ある。そりゃあ選ばれるわ。

そして。

「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済

チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学

「その日暮らし」とはまた絶妙なキーワードを出してきたものだ。
今の日本で「その日暮らし」なんて、一般的にはネガティブな文脈で語られることが多いだろう。

その対極で、今私たちは例えば「老後のためにお金貯めよう」とか「将来のために今は(我慢して)●●しなければ」とか、そんな考えが、もはや疑う余地もないくらいに自明のものとして染みついてる。
が、彼女の描き出す「その日暮らし」はそんな凝り固まった価値観を軽やかに飛び越える。
そんな窮屈な強迫観念は、たまたまこの時代、この地域に蔓延した特異な奇習であって、普遍的なものでも何でもないことを鮮やかに活写する。

それを押しつけがましくなく、フィールドでのタンザニア人との絡みからサラッと浮かび上がらせるその手腕がサイコーなのだ。

小川さやかの類いまれな才能はもちろんのこと、
その能力を存分に発揮させられるだけの人類学の学問としての度量もまだまだ捨てたもんちゃうやん、とエラそうながら思っちゃう。

惜しむらくは、このオムニバス講座(水曜4限)が自分の担当授業とモロ被りのため、結局一度も聴講できなかったことだ。
どの学生よりも私が一番聞きたかった講座なのに。残念すぎる!!
せめて資料だけでも貰うことにしよう。

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えんたく(Entak)

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